さまざまな対策により、年々減少傾向にある待機児童。ピーク時の待機児童数は約26,000人以上で「保育園に入れないから仕事に復帰できない」「待機児童になると困るから子どもを諦める」など、各家庭に大きな影響を及ぼしました。2022年現在の待機児童数は約3,000人。減少傾向にあるとはいえ、まだまだ悩んでいる家庭が多いのが現状です。この記事では、待機児童とは何か、その定義や原因を分かりやすく解説します。参考:厚生労働省「令和3年4月の待機児童数調査のポイント」 待機児童とは?
待機児童とは、簡単にいえば「保育が必要な状態にもかかわらず保育園を利用できない子ども」のことを指します。
ここからは、待機児童について分かりやすく解説します。
厚生労働省の定義
厚生労働省の定義では「保育園の利用申込を済ませて保育の必要性が認定されているにもかかわらず利用できていない子ども」を、待機児童としています。以前は、保護者が育児休暇を取得している場合、保育園に入園できなくても待機児童としてカウントされていませんでした。しかし、子どもの保育園が決まらず職場復帰できない保護者が増加したことから定義が変更されました。定義の変更は、待機児童数がピークを迎えた2017年頃のことで、育児休業中でも保活をしている家庭の子どもは待機児童としてカウントされるようになりました。参考:厚生労働省「保育所等利用待機児童の定義 」 隠れ待機児童の問題
育児休業中の待機児童の定義が変更されたものの、実は待機児童にカウントされていない「隠れ待機児童(保留児童)」が多く存在します。
それは、入園できる保育園があるにもかかわらず、特定の保育園への入園を希望している場合です。
「朝の開園時間が遅く仕事に間に合わない」「兄弟で同じ保育園にしたい」などの理由から、特定の保育園に空きがでるまで待っているケースは、待機児童としてカウントされていないのが現状です。
また、働くつもりで申込を済ませているものの、子どもを預けられずに求職活動を中断している場合も待機児童に該当しません。
待機児童として発表されている数は、このような隠れ待機児童が含まれていないのです。
保育園以外の待機児童
待機児童といえば保育園ですが、地域によっては学童保育でも待機児童が発生しています。学童保育とは、学童クラブや児童クラブとも呼ばれる、小学校の放課後や休業日に子どもを預かる施設です。なんとか保育園に入園できたとしても、子どもが小学校に進学して学童保育に入れず、仕事を続けられなくなる家庭も少なくありません。学童保育の待機児童は13,000人を超え、多くの家庭が民間の学童や習い事を活用するなど、試行錯誤しているのが現状です。参考:厚生労働省「令和3年(2021年) 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」 待機児童が発生する原因
少子化といわれる昨今、子どもの人数が減っているにもかかわらず、保育園に入園できないのはなぜでしょうか?
ここからは、待機児童が発生する原因を分かりやすく解説します。
共働き世帯の増加
待機児童問題の原因として、共働き世帯の増加が挙げられます。妊娠・出産を終えても変わらず働き続ける女性が増え、共働き世帯が多くなったことから保育園のニーズが高くなりました。同じように子どもを保育園に入園させたいと考える家庭が多く、保育園の受け入れ定員を上回ることで待機児童が発生しています。共働き世帯の割合は全体の70%を超え、保育園のニーズはますます高く推移し続けるでしょう。参考:厚生労働省「共働き等世帯数の年次推移」 核家族化の進行
核家族化の進行も、待機児童発生に大きな影響を与えています。
祖父母との同居により、子どものお世話を頼める場合は、保育園への入園を希望する必要がないでしょう。
しかし、夫婦と子どもだけで暮らす場合は、保育園を頼らざるをえません。
また、働くために都心へ住む家庭が多くなることにより、待機児童に地域差がでてしまうことも共働きや核家族化の影響といえるでしょう。
保育士不足の問題
待機児童増加には、慢性的な保育士不足も関係しています。
保育園によっては、配置基準を満たす保育士を確保できず、子どもを定員いっぱいまで受け入れられないケースも少なくありません。
待機児童解消のために保育園を新設しても、保育士が揃っていなければ子どもを受け入れられないのが現状です。
待機児童に悩む家庭の動き
待機児童が多い地域に住んでいる家庭は、自身の勤務開始までに子どもの預け先を確保すべく「保活」をおこないます。保活とは、希望する保育園に入れるよう保護者がおこなう活動のことです。保育園の入園選考は、各家庭の状況を点数化しておこなわれます。自治体によって配点や基準は異なりますが、以下のような家庭は加点対象になることが多いようです。● 就労状況が夫婦共にフルタイム
● すでに在園している兄弟がいる
● やむを得ず無認可保育園などを利用している
● 祖父母が遠方に住んでいて頼れない
待機児童に悩む家庭は、上記のような項目を意識して高得点になるよう保活の戦略を練っています。なかには、保育園への入園を諦めて幼稚園に入園させ、預かり保育を利用しながら仕事をこなす家庭も少なくありません。 待機児童解消のための国の動き
待機児童解消に向けて、国は2018年~2020年まで「子育て安心プラン」として、約32万人分の保育の受け皿確保に動きました。掲げていた目標は達成しなかったものの、約30万人分の受け皿を確保できています。また、2021年~2024年まで「新子育て安心プラン」として、増え続ける保育園の需要にマッチできるよう約14万人の保育受け皿拡大を目指しています。国のさまざまな施策により、待機児童解消はもちろん、第一希望の保育園に入園できる環境が整うと期待できるのではないでしょうか?参考:厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」 待機児童解消と保育士の関係
待機児童問題を解消するため、それぞれの地域が保育士確保に奮闘しています。
このような動きは、保育士として働く人や、資格を持っていながら保育施設で勤務していない潜在保育士にどのような影響を与えるのでしょうか?
待機児童解消と保育士の関係を詳しく解説します。
認定こども園や認可外保育園の増加
待機児童解消のため、施設の増設が進められています。
そのため、保育士の就職・転職の選択肢が広がっている状況です。
「自宅から通える距離」「共感できる保育方針」など、自身の希望を満たす保育園を探しやすくなるといえるでしょう。
保育士人材確保のための業務見直し
保育士確保のため、働きやすい環境を整えることも待機児童解消に大きく関係しています。
保育士配置基準を上回る人数を確保したり、ICTシステムを導入して書類仕事の効率化を図ったりすることで、保育士一人ひとりの負担が緩和されます。
業務量の見直しは、離職率の低下や新たな採用につながるといえるでしょう。
各自治体による就労支援施策
自治体にもよりますが、潜在保育士の確保に向けて就労支援に力を入れているケースも少なくありません。
就職に向けた支援金の貸付、ブランクがある人への研修など、さまざまな施策により復職を支援しています。
保育士不足の解消は、待機児童問題の解消に大きく貢献するといえるでしょう。
まとめ
待機児童とは、保育園への入園を希望して申込を済ませているにもかかわらず、入園できない状態の子どものことです。
待機児童数は年々減少傾向にありますが、保育園を利用する子どもの数は増加し続けています。
共働き家庭のニーズに合わせられるよう、引き続き保育の環境整備が求められます。
そのなかには、保育士不足解消のための施策も多くおこなわれています。保育士にとって、より働きやすい環境が整えられることを期待しましょう。