自閉症スペクトラム(ASD)という言葉をご存じでしょうか。近年では発達障害に対する理解が広まり、自閉症スペクトラムについても知られるようになってきました。しかしながら、「言葉は聞いたことがあるけれど、どういうものかよく知らない」「自閉症スペクトラムの子に対してどのように接したらよいかわからない」など、理解や対応に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 今回は自閉症スペクトラムとはそもそも何なのか、その特性や、自閉症スペクトラムのある子どもへの対応のポイントを学んでいきます。
自閉症スペクトラム(ASD)ってなに?
「自閉症スペクトラム(自閉症スペクトラム症・自閉症スペクトラム障害)」とは発達障害のひとつで、社会性やコミュニケーションに困難を抱えてしまう障害のことを指します。 英語ではAutistic Spectrum Disorderといい、その略称である「ASD」と呼ばれることが一般的になっています。
◆自閉症とは違うの?◆
これまでは自閉症や高機能自閉症(知的な遅れを伴わないもの)、アスペルガー症候群やレット症候群、小児崩壊性障害など、診断名が分かれていました。しかし現在では自閉症や、自閉症のグループとされる障害をすべてまとめて「自閉症スペクトラム」と呼ぶことが多くなっています。
ひとくちに自閉症スペクトラムと言っても、子どもによって自閉度の強さや知的障害の有無、特性の出方などはさまざま。それらを幅広く捉えたものが「自閉症スペクトラム」なんだホィ。
自閉症スペクトラムに含まれる障害とは?
自閉症スペクトラムには、自閉症だけでなく、知的な遅れを伴わない高機能自閉症や、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、レット症候群などの障害が含まれます。
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自閉症 | 1000人に1~2人の割合で発症します。その程度には大きな個人差があり、てんかん発作や睡眠障害を起こしやすいともいわれています。社会的対人関係やコミュニケーションで特徴が見られる傾向があり、知的障害がない場合(IQ80以上の場合)には高機能自閉症と呼ばれます。女児よりも男児に多い傾向にあります。 【主な特徴】 ・目を合わせることが苦手 ・言葉の遅れやオウム返しがよくみられる ・多動である ・こだわりが強い ・意思を言葉にできずパニックをおこす ・要望がある場合相手を引っ張っていくクレーン現象がある |
アスペルガー症候群 | 男性の割合が4分の3ほどであるといわれています。自閉症によく似ていますが知的な障害はなく、高機能自閉症と線引きをしない場合もあります。会話能力は正常であり、気付かれにくいケースもあります。とくに想像力(こだわり行動)の点で特徴がみられます。 【主な特徴】 ・社会的なルールの理解が苦手 ・場の空気が読めず、自己中心的と誤解されやすい ・相手を傷つけることを思ったまま言ってしまうことがある ・ジェスチャーやアイコンタクトを交えて会話ができない ・車や鉄道など特定のものに強いこだわりがある ・興味のあるものに対する集中力や記憶力に優れている ・本人が決めたルールを変えることを嫌がる |
小児期崩壊性障害 | 有病率は約0.01%で男児に多いとされています。2歳くらいまでは正常に発達するものの、その後対人反応障害がおこり、言葉がなくなるなどの退行がみられます。精神発達の退行は半年以内にストップすると言われていますが、自閉的な状態はその後も続くとされます。 【主な特徴】 ・2歳以降に特性があらわれる ・言葉が出なくなる(有意味語消失) ・排便や排尿機能に問題が生じる ・運動能力の退行がみられる ・執着心が強くなる |
レット症候群 | ほとんど女児に起こる進行性の神経疾患です。生後6カ月ころまでは正常な発達を見せるのが特徴。1万~1万5千人に1人の割合で起こり、生後6カ月~1歳半の頃に発症します。 【主な特徴】 ・常に手をもむような動作をする ・知能や言葉、運動能力が遅れる ・手をたたく、手を口に入れるなどを繰り返す ・昼夜の区別ができず睡眠パターンが安定しない |
その他の広汎性発達障害 | 広汎性発達障害には、特定の診断基準を満たさないものの、さまざまな知的障害、行動障害、社会的関係上の問題が現れるケースも含まれます。特定の診断名が無い場合は、「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれます。 |
自閉症スペクトラムに含まれる、これらの障害は、広汎性発達障害(PDD)と呼ばれていたもので、障害の線引きはとても難しいものでした。
そのため、2013年の診断基準改定時に、その名称が「自閉症スペクトラム」に変更され、それぞれの障害を別々に考えるのではなく、自閉症スペクトラム」という連続性で捉えるという考え方に変わりました。
障害の名前にこだわるのではなく、その子がどんな部分で困難を抱えているのかにあわせた支援をしていくことが大切なんだホィ! ほかの発達障害をあわせもつこともある
自閉症スペクトラムのある子どものなかには、ADHD(注意欠如多動性障害)やLD(学習障害)など、他の発達障害をあわせ持っているケースもあります。
自閉症スペクトラム(ASD)の特性とは?
自閉症スペクトラムの特徴は、大きく分けて「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力の障害」「感覚の特異さ」の4つです。人によってその特性のあらわれ方は異なりますが、自閉症スペクトラムのある子どもたちには、だいたい3歳くらいまでには、なんらかの特性があらわれるとされています。
特性のあらわれ方が弱いと、学童期まで自閉症スペクトラムであるとわからないこともあるんだよ。
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社会性(対人関係)の障害 | ・他者の存在に無関心 ・人とのかかわりを避ける ・目が合いにくい ・一人遊びを好む |
コミュニケーションの障害 | ・表情が乏しい ・抑揚がない、リズムが不自然など、話し方が独特 ・オウム返しが多い ・一方的に自分の関心のあることをしゃべり続けてしまう |
想像力の障害 (こだわり行動) | ・相手の気持ちを考えられない ・変化を嫌う ・特定のものに対するこだわりが強い ・人の視線がわからない |
感覚の特異さ | ・視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚に偏りがある ・動きがぎこちない |
では、それぞれの特性について、詳しく見ていきましょう。
【特性1】社会性(対人関係)の障害
自閉症スペクトラムのある子どもは、人とのかかわりにおいて、困難をかかえてしまうことが多くあります。
また、人に対してよりも、ものに対する興味が強くなりやすい傾向にあります。
◆乳幼児期における具体的な例◆
・抱っこされたり触れられたりすることを嫌がる
・呼ばれても反応しない
・後追いをしない
・あやしても笑わない
・視線が合いにくく表情が乏しい
【特性2】コミュニケーションの障害
自閉症スペクトラムがある場合、その場の状況を理解して、それに適した判断をして行動するということが苦手な傾向にあります。
積極的に人とコミュニケーションをとりたいと思う思いが比較的弱く、他者の気持ちをくんだり、表情や態度を読み取ることが苦手なため、周囲から「自分勝手」「空気が読めない」と捉えられてしまうこともあります。
◆乳幼児期における具体的な例◆
・たとえ話や冗談が通じない
・棒読みや難しい単語の羅列など、気持ちの通じない対話が多い
・オウム返しが多い
・話し言葉が出てこない
・一方的に自分の好きなものの話をする
・思ったことをそのまま言ってしまう
【特性3】想像力の障害(こだわり行動)
自閉症スペクトラムのある子は、興味に偏りがあったり、行動に強いこだわりを持っているケースが多くあります。
これは「いつもと違うできごと」や「変化」に柔軟に対応することが苦手であるという一面を持っており、同じことを繰り返したり、特定のことにこだわることで、安心感を得ようとしていると考えられています。
◆乳幼児期における具体的な例◆
・同じ道順や一日のスケジュールにこだわる
・予定の変更に抵抗を示す
・特定のものを集める
・ごっこ遊びが苦手
・同じ動きを繰り返すことに没頭する
【特性4】感覚の特異さ
通常よりも感覚がとても敏感であったり、逆に鈍感であったりするのも、自閉症スペクトラムの特性のひとつです。また運動面で不器用さがあらわれることもあり、そのあらわれ方には大きな個人差があります。
◆乳幼児期における具体的な例◆
・特定の音を耳にすると極端に嫌がる
・痛みを感じにくい(怪我に気づかない)
・自傷行為をする
・暑い・寒いなどの感覚が鈍い
・体の動かし方がぎこちない
・ふにゃふにゃと姿勢が悪い
さまざまな特性があるけれど、すべてがマイナスということではなく、優れた記憶力を備えていたり、芸術活動で才能を発揮したりする子もいるんだよ!
苦手なこと、得意なこと、どちらもその子「らしさ」として受け止めてあげることが大切だホィね!
自閉症スペクトラムの原因は?
自閉症スペクトラムは、脳の機能や、脳と体をつなぐ中枢神経になんらかの問題が生じることが原因になっていると考えられていますが、まだわからない部分も多く、現在も専門家による研究が進められています。
「自閉症」という文字の並びから、精神疾患という誤った捉え方をされることがありますが、生まれつきの脳機能の問題が原因であり、ストレスなどの心理的な要素が引き金で起こったり、保護者の育て方によって起こったりするものではありません。
また、病気とは異なり、治療を行えば完治するというものではありませんが、正しい理解や適切な支援があれば、その子なりのペースで成長していくことができます。
特性をしっかり理解したうえで、適切な支援・援助を行い、その子どもたちがよりよく生きられる環境、体制を作り出してあげることが重要だと言えるでしょう。
診断は?薬は必要?自閉症スペクトラムの疑問
自閉症スペクトラムについては、世の中にさまざまな情報があり、「いったいどれを信用したらよいのかわからない!」という方も多いでしょう。
ここでは、自閉症スペクトラムについて多くの方が疑問に思う点について、ご紹介していきます。
自閉症スペクトラムの診断の流れは?
自閉症スペクトラムは児童精神科や小児神経科の一部の医師が診断を行います。診断は、保護者との面談(問診)の内容や、子どもの様子を見る行動観察、検査などを診断基準と照らし合わせて行われます。
一度の診断ですべてがわかるわけではないから、長期的なフォローが必要だホィ。 治療はどうやって行うの?
自閉症スペクトラムは病気とは異なり、薬を処方されたり、医療機関で治療することで完治するものではありません。
自閉症スペクトラムと診断を受けた場合には、その子にあわせたプログラムで、不得意な部分をフォローし、得意な部分を伸ばしていく「療育」(治療教育)と呼ばれるトレーニングを受けながら、発達を支援していくことがメインの治療となっていきます。
自閉症スペクトラムは増えている?
発達障害への正しい理解が広まったこと、また診断基準が変わり、自閉症スペクトラムと判断される範囲が広まったことなどから、自閉症スペクトラムと診断される子どもが増えています。
ただし、社会的に自閉症スペクトラムに対する認識や理解が広まり、子どもたちの「気になる姿」に対する気づきの機会が増えたことも背景にあるため、一概に自閉症スペクトラムの子どもが多くなっているとは言い切れないでしょう。
こんなときには?対応のポイントと正しい支援
ではここからは、自閉症スペクトラムに多くみられる行動事例から、具体的な対応のポイントをご紹介していきます。
◆指示が伝わらない
一見うなずいていたり、きちんと話を聞いているように見えても、なかなか言っていることを理解できないことがあります。そんな時にはその子の言語理解力を踏まえた適切な指示の出し方を考える必要があります。
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【視覚的に指示する】 絵やカード、文字を使って視覚的に見せることで理解が進むこともあります。 【簡潔明瞭に指示する】 指示は短く、また複数やらなくてはいけないことがある場合にも、一つひとつの行動に対して個別に指示しましょう。 【情報を整理する】 手を握りながら、頭をなでながら、など、他の行動を取りながら指示をすると混乱しがちなので、指示をするときはそれだけに集中しましょう。 【具体的に指示する】 「キチンと〇〇して!」などではなく「〇〇をこの袋に入れて」など具体的な言い方で伝えましょう。 【すぐに指示する】 いけないことをした場合には、その場ですぐに伝える必要があります。その場合には「〇〇しちゃダメ!」という否定形よりも「〇〇します」という肯定形に変換してあげるとよいでしょう。 |
◆ジッとしていることや時間を守ることが苦手
一見わがままのように見えるこの行動も、他者の気持ちがわかりづらい、状況判断が苦手といった特性が原因となっています。
やるべきことが決まっているならば、たとえば、リストを作って具体的に指示する、ものごとに取り組む前に、何時まで何をするのか予定を伝えるなどして、予定を明確にしてあげましょう。
◆やってよいこと悪いことの区別がしにくい
自閉症スペクトラムでは、暗黙のルール、常識といったものの理解が難しいとされています。自分や他人を傷つける行動や、社会に出て許されない行動については、具体的にどうすべきなのかを示しながら、根気よく教えることが必要でしょう。
ピクトグラムやリストなどを用いて、やってはいけないこと、やらなくてはいけないことなどをわかりやすく明示してもよいでしょう。
◆コミュニケーションがうまく取れない
これは単なる言語の問題だけでなく、2つのことを同時にできないなどの認知上の特性が原因となっている場合もあります。「今度は先生がお話しする番です」など具体的にハッキリ指示する、また順番に話すということをあらかじめ伝えることも必要です。
身振りやしぐさも加えて、やりとりの機会を増やし、コミュニケーションの楽しさを少しずつ伝えていきましょう。
◆パニックを起こしてしまう
パニックは、その子にとってよくわからないこと、伝えたいことが伝わらないことに対する混乱のしるしです。まずはパニックが起こりやすい状況を記録して、子どもが何に困っているのかを知りましょう。
見通しのある落ち着いた生活のリズムを与えることも大切です。変更点があるときには、前もって伝えておくことを心がけましょう。
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まずは本人と周囲の安全を確保しましょう。ただし対応の際には、止める側はあくまで冷静に。説得したり怒鳴ることは状況をさらに悪化させるため、静かにクールダウンさせましょう。 |
◆強いこだわりがある
こだわりをなくすことを目指すのではなく、それが心の安定を保っていることを理解しましょう。その行動が本人や周囲にとって問題となっている場合には、時間帯や場所を限定してみたり、できない時にはできないことが明確にわかるようにする(例:バツ印をつける)など工夫してみましょう。
予測ができないために変化を恐れる特徴もあるため、あらかじめ予定を明確に伝えることも大切です。
◆感覚が極端に敏感
触られるのを嫌がったり、爪切りなどを極端に嫌うなどがあります。ムリにやらせようとするのではなく、興味を引きだす導入を行ったり、「突然の変化」を防ぐために予告をするのもよいでしょう。
◆同じことを何度言ってもわからない
何度も同じ間違いを繰り返す場合には、その子が何が間違っているのか分からず、本人も混乱していることがあります。根気よく教えるとともに、よりわかりやすい方法はないか考え、図にする、写真を使うなどの工夫をしてみましょう。
困ったときは…保護者とも共有したい相談窓口
自閉症スペクトラムの子どもたちに対して適切な支援を行うために、各地方自治体には、「発達障害者支援センター」や「子ども発達支援センター」といった相談窓口が設置されています。発達障害者支援センターでは、発達障害のある本人やその家族、関係機関などの、さまざまな相談に乗り、その療育方法についてもアドバイスを行っています。
対応の仕方に困っている、という場合にはお近くの自治体に確認し、相談をしてみてもよいでしょう。またセンターは自閉症スペクトラムの子どもを持つ保護者にとっても、良き相談窓口になってくれるはずです。もしも対応に困っているようならば、最寄りの相談機関を紹介してあげるのもよいでしょう。
≫全国の発達障害者支援センター一覧はこちら
この他にも、保健所や保健センター、子育て支援センター、児童相談所(相談センター)や地域の児童精神科なども、発達障害に関する相談を受け付けているよ。自治体に確認してみよう! 保護者支援の立場から
保育士さんは、子どもとともに保護者の支援を行うのも大切な役割です。「うちの子は自閉症スペクトラムかもしれない……」「どこか育てにくさを感じる……」そんな保護者の心は不安でいっぱいでしょう。
まずは、そんな保護者の気持ちを受け止め、共感して寄り添うという姿勢が大切です。
保育者の立場からは、支援が必要な子どもたちについて「どのように伝えよう」「早く気付かせるべきだ」と思うかもしれません。しかしながら、保育所における保護者に対する支援の基本には

子育て等に関する相談や助言に当たっては、保護者の気持ちを受け止め、相互の信頼関係を基本に、保護者一人ひとりの自己決定を尊重すること。(一部抜粋)

とあります。保育士さんの役割は、自閉症スペクトラムの診断や、診断名の押し付けではなく、保護者と信頼関係を築き、悩みや不安を気兼ねなく相談できるようにすることと言えるでしょう。
また、必要な時に保護者に適切な助言を行い、正しい情報提供を行うためにも、保育士さん自身が、自閉症スペクトラムなどの発達障害に対して、正しい認識を持っておくことも大切です。
「保護者の目線」を大切にしながら、子どもたちの困っていること、保護者が困っていることに共感し、寄り添っていけるとよいね!
編集者より
自閉症スペクトラムは、その子どもごとに特性の出方も強さも異なるため、一概に「この対応をすれば大丈夫!」と言い切れるものではありません。
その子が安心して、自分の力を伸ばしていくことをサポートするには、その子の様子や取り巻く環境を十分に観察し、どこに困難を抱えているのかを理解しようとする姿勢が不可欠と言えるでしょう。
正しい知識を持つことと同時に、そういった姿勢も大切にしながら、多様な子どもたちの育ちを支えていきたいですね。
※漢字表記については、厚生労働省および政府広報などに合わせて「障害」としておりますが、「障碍」「障礙」「障がい」とも表記されます。
参考文献・サイト