保育をおこなう際、重要な視点となる五領域。子どもの資質や能力を成長させるため、保育所保育指針にて定められています。保育士は、五領域を意識しながら各種指導案を作成し、保育の道筋として役立てます。
この記事では「保育の五領域」や、合わせて意識したい「3つの柱」「10の姿」について詳しく解説します。また、五領域に沿った実際の活動例も紹介しますので、日々の保育の参考にしてください。
保育の五領域とは?
保育所保育指針にて定められている五領域には、子どもの資質や能力を成長させるためのねらいや内容が記載されています。それぞれ、以下の領域にわけられます。● 健康
● 人間関係
● 環境
● 言葉
● 表現この5つの領域を意識して指導案を作成することにより、子どもの総合的な心身の発達を促せます。それぞれの詳しいねらいや内容はのちほどわかりやすく解説します。なお、保育園は厚生労働省の「保育所保育指針」に基づいた保育が基本ですが、幼稚園は文部科学省が定める「幼稚園教育要領」を参考に教育をおこないます。参考:厚生労働省「保育所保育指針」 3つの柱とは?
「3つの柱」とは、日々の保育で育てたい資質や能力を3つに分けたものです。2018年に改定された保育所保育指針により、小学校進学を見据えた保育が重要視されるようになりました。3つの柱は、保育の五領域の基礎になるものといえるでしょう。
● 知識および技術の基礎
● 思考力・判断力・表現力などの基礎
● 学びに向かう力や人間性など
上記の3つは、子どもたちが生きるうえで必要な力となり、幼少期から就学後まで継続して重要視するものです。
10の姿とは?
「10の姿」とは、幼児期の終わりまでに育って欲しい姿を10項目に定めたものです。
1. 健康な心と身体
2. 自立心
3. 協同性
4. 道徳性・規範意識の芽生え
5. 社会生活との関わり
6. 思考力の芽生え
7. 自然との関わり・生命尊重
8. 数量・図形、文字等への関心・感覚
9. 言葉による伝え合い
10. 豊かな感性と表現
五領域の内容を明確にしたもので、保育の方向性を定めやすくなっています。
保育の五領域の内容やねらい
保育の五領域における、それぞれの特徴は以下のとおりです。
健康 | 健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う |
人間関係 | 他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う |
環境 | 周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもって関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う |
言葉 | 経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う |
表現 | 感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする |
ここからは、保育の五領域それぞれに、どのような内容・ねらいが定められているか詳しく確認していきましょう。
保育の五領域「健康」
健康 | 1歳以上/3歳未満児 | 3歳以上児 |
ねらい | ・明るく伸び伸びと生活し、自分から体を動かすことを楽しむ ・自分の体を十分に動かし、様々な動きをしようとする ・健康、安全な生活に必要な習慣に気付き、自分でしてみようとする気持ちが育つ | ・明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう ・自分の体を十分に動かし、進んで運動しようとする ・健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付け、見通しをもって行動する |
内容 | ・保育士等の愛情豊かな受容の下で、安定感をもって生活をする ・食事や午睡、遊びと休息など、保育所における生活のリズムが形成される ・走る、跳ぶ、登る、押す、引っ張るなど全身を使う遊びを楽しむ ・様々な食品や調理形態に慣れ、ゆったりとした雰囲気の中で食事や間食を楽しむ ・身の回りを清潔に保つ心地よさを感じ、その習慣が少しずつ身に付く ・保育士等の助けを借りながら、衣類の着脱を自分でしようとする ・便器での排泄に慣れ、自分で排泄ができるようになる | ・保育士等や友達と触れ合い、安定感をもって行動する ・いろいろな遊びの中で十分に身体を動かす ・進んで戸外で遊ぶ ・様々な活動に親しみ、楽しんで取り組む ・保育士等や友達と食べることを楽しみ、食べ物への興味や関心をもつ ・健康な生活のリズムを身に付ける ・身の回りを清潔にし、衣服の着脱、食事、排泄などの生活に必要な活動を自分でする ・保育所における生活の仕方を知り、自分たちで生活の場を整えながら見通しをもって行動する ・自分の健康に関心をもち、病気の予防などに必要な活動を進んで行う ・危険な場所、危険な遊び方、災害時などの行動の仕方が分かり、安全に気を付けて行動する |
保育の五領域「人間関係」
人間関係 | 1歳以上/3歳未満児 | 3歳以上児 |
ねらい | ・保育所での生活を楽しみ、身近な人と関わる心地よさを感じる ・周囲の子ども等への興味や関心が高まり、関わりをもとうとする ・保育所の生活の仕方に慣れ、きまりの大切さに気付く | ・保育所の生活を楽しみ、自分の力で行動することの充実感を味わう ・身近な人と親しみ、関わりを深め、工夫したり、協力したりして一緒に活動する楽しさを味わい、愛情や信頼感をもつ ・社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける |
内容 | ・保育士等や周囲の子ども等との安定した関係の中で、共に過ごす心地よさを感じる ・保育士等の受容的・応答的な関わりの中で、欲求を適切に満たし、安定感をもって過ごす ・身の回りに様々な人がいることに気付き、徐々に他の子どもと関わりをもって遊ぶ ・保育士等の仲立ちにより、他の子どもとの関わり方を少しずつ身につける ・保育所の生活の仕方に慣れ、きまりがあることや、その大切さに気付く ・生活や遊びの中で、年長児や保育士等の真似をしたり、ごっこ遊びを楽しんだりする | ・保育士等や友達と共に過ごすことの喜びを味わう ・自分で考え、自分で行動する ・自分でできることは自分でする ・いろいろな遊びを楽しみながら物事をやり遂げようとする気持ちをもつ ・友達と積極的に関わりながら喜びや悲しみを共に共感し合う ・自分の思ったことを相手に伝え、相手の思っていることに気付く ・友達のよさに気付き、一緒に活動する楽しさを味わう ・友達と楽しく活動する中で、共通の目的を見いだし、工夫したり、協力したりなどする ・よいことや悪いことがあることに気付き、考えながら行動する ・友達との関わりを深め、思いやりをもつ ・友達と楽しく生活する中で決まりの大切さに気付き、守ろうとする ・共同の遊具や用具を大切にし、皆で使う ・高齢者をはじめ地域の人々などの自分の生活に関係の深いいろいろな人に親しみをもつ |
保育の五領域「環境」
環境 | 1歳以上/3歳未満児 | 3歳以上児 |
ねらい | ・身近な環境に親しみ、触れ合う中で、様々なものに興味や関心をもつ ・様々なものに関わる中で、発見を楽しんだり、考えたりしようとする ・見る、聞く、触るなどの経験を通して、感覚の働きを豊かにする | ・身近な環境に親しみ、自然と触れ合う中で、様々な事象に興味や関心をもつ ・身近な環境に自分から関わり、発見を楽しんだり、考えたりし、それを生活に取り入れようとする ・身近な事象を見たり、考えたり、扱ったりする中で、物の性質や数量、文字などに対する感覚を豊かにする |
内容 | ・安全で活動しやすい環境での探索活動等を通して、見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わうなどの感覚の働きを豊かにする ・玩具、絵本、遊具などに興味をもち、それらを使った遊びを楽しむ ・身の回りの物に触れる中で、形、色、大きさ、量などの物の性質や仕組みに気付く ・自分の物と人の物の区別や、場所的感覚など、環境を捉える感覚が育つ ・身近な生き物に気付き、親しみをもつ ・近隣の生活や季節の行事などに興味や関心をもつ | ・自然に触れて生活し、その大きさ、美しさ、不思議さなどに気付く ・生活の中で、さまざまな物に触れ、その性質や仕組みに興味や関心をもつ ・季節により自然や人間の生活に変化のあることに気付く ・自然などの身近な事象に関心をもち、取り入れて遊ぶ ・身近な動植物に親しみをもって接し、生命の尊さに気付き、いたわったり、大切にしたりする ・日常生活の中で、我が国や地域社会における様々な文化や伝統に親しむ ・身近な物を大切にする ・身近な物や遊具に興味をもって関わり、自分なりに比べたり、関連付けたりしながら考えたり、試したりして工夫して遊ぶ ・日常生活の中で数量や図形などに関心をもつ ・日常生活の中で簡単な標識や文字などに興味をもつ ・生活に関係の深い情報や施設などに興味や関心をもつ ・保育所内外の行事において国旗に親しむ |
保育の五領域「言葉」
言葉 | 1歳以上/3歳未満児 | 3歳以上児 |
ねらい | ・言葉遊びや言葉で表現する楽しさを感じる ・人の言葉や話などを聞き、自分でも思ったことを伝えようとする ・絵本や物語等に親しむとともに、言葉のやり取りを通じて身近な人と気持ちを通わせる | ・自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう ・人の言葉や話などをよく聞き、自分の経験したことや考えたことを話し、伝え合う喜びを味わう ・日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、言葉に対する感覚を豊かにし、保育士等や友達と心を通わせる |
内容 | ・保育士等の応答的な関わりや話しかけにより、自ら言葉を使おうとする ・生活に必要な簡単な言葉に気付き、聞き分ける ・親しみをもって日常の挨拶に応じる ・絵本や紙芝居を楽しみ、簡単な言葉を繰り返したり、模倣をしたりして遊ぶ ・保育士等とごっこ遊びをする中で、言葉のやり取りを楽しむ ・保育士等を仲立ちとして、生活や遊びの中で友達との言葉のやり取りを楽しむ ・保育士等や友達の言葉や話に興味や関心をもって、聞いたり、話したりする | ・保育士等や友達の言葉や話に興味や関心をもち、親しみをもって聞いたり、話したりする ・したり、見たり、聞いたり、感じたり、考えたりなどしたことを自分なりに言葉で表現する ・したいこと、してほしいことを言葉で表現したり、分からないことを尋ねたりする ・人の話を注意して聞き、相手に分かるように話す ・生活の中で必要な言葉が分かり、使う ・親しみをもって日常の挨拶をする ・生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く ・いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする ・絵本や物語などに親しみ、興味をもって聞き、想像をする楽しさを味わう ・日常生活の中で、文字などで伝える楽しさを味わう |
保育の五領域「表現」
表現 | 1歳以上/3歳未満児 | 3歳以上児 |
ねらい | ・身体の諸感覚の経験を豊かにし、様々な感覚を味わう ・感じたことや考えたことなどを自分なりに表現しようとする ・生活や遊びの様々な体験を通して、イメージや感性が豊かになる | ・いろいろなものの美しさなどに対する豊かな感性をもつ ・感じたことや考えたことを自分なりに表現して楽しむ ・生活の中でイメージを豊かにし、さまざまな表現を楽しむ |
内容 | ・水、砂、土、紙、粘土など様々な素材に触れて楽しむ ・音楽、リズムやそれに合わせた体の動きを楽しむ ・生活の中で様々な音、形、色、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりして楽しむ ・歌を歌ったり、簡単な手遊びや全身を使う遊びを楽しんだりする ・保育士等からの話や、生活や遊びの中での出来事を通して、イメージを豊かにする ・生活や遊びの中で、興味のあることや経験したことなどを自分なりに表現する | ・生活の中で様々な音、形、色、手触り、動きなどに気付いたり、感じたりするなどして楽しむ ・生活の中で美しいものや心を動かす出来事に触れ、イメージを豊かにする ・様々な出来事の中で、感動したことを伝え合う楽しさを味わう ・感じたこと、考えたことなどを音や動きなどで表現したり、自由にかいたり、つくったりなどする ・いろいろな素材に親しみ、工夫して遊ぶ・音楽に親しみ、歌を歌ったり、簡単なリズム楽器を使ったりなどする楽しさを味わう ・かいたり、つくったりすることを楽しみ、遊びに使ったり、飾ったりなどする ・自分のイメージを動きや言葉などで表現したり、演じて遊んだりするなどの楽しさを味わう |
保育の五領域を意識した活動例
参考:厚生労働省「保育所保育指針」五領域それぞれの内容やねらいを理解しても、実際にどのように保育に取り入れるべきか迷う人も多いのではないでしょうか?そこでここからは、それぞれの領域を意識した保育活動の具体例をご紹介します。
「健康」の領域を意識した保育活動の具体例
「健康」の領域では、遊びや生活をとおして清潔・食育・安全などの要素を学びます。
● 跳び箱やマットを使った遊び
● ボールやタオルを使った遊び
● フープや縄を使った遊び
● ボタンやチャックの練習
● トイレトレーニング
● クッキング体験
● 手洗い、うがい、歯磨きなど
● 地震や火災などの避難訓練
上記のような保育により、健康の領域につなげられます。年齢に合った運動遊びや、基本的生活習慣の確立を意識しましょう。
「人間関係」の領域を意識した保育活動の具体例
「人間関係」の領域では、保育士やお友達との関わりのなかで人と関わる力を養います。
● わらべ歌などのふれあい遊び
● 2人1組で競争する遊び
● なりきり・ごっこ遊び
● ルールを設けた集団遊び
● 地域の方々との交流
● クラス全体での共同制作
上記のような保育により、人間関係の領域につなげられます。年齢に合ったごっこ遊びなどを取り入れて、お友達と一緒に楽しむ時間を大切にしましょう。
「環境」の領域を意識した保育活動の具体例
「環境」の領域では、自然との触れ合いから探求心や好奇心を育てます。
● 季節に合った絵本の読みきかせや歌の指導
● 四季の移り変わりを感じる外散歩
● 紅葉やどんぐりなどを使った製作
● 身近な素材を活用した造形遊び
上記のような保育により、環境の領域につなげられます。外遊びなど自然を感じられる機会を多く取り入れて、探求心や好奇心を刺激してあげましょう。
「言葉」の領域を意識した保育活動の具体例
「言葉」の領域では、保育士やお友達とのやりとりのなかで言葉で表現する力を養います。
● 紙芝居や絵本などの読み聞かせ
● 日常のなかでの挨拶
● おままごとなどのごっこ遊び
● クラスのグループ決め
上記のような保育により、言葉の領域につなげられます。保育士の話しを聞く、またはお友達同士で話し合う機会を多く取り入れて、語彙力や表現力を高めましょう。
「表現」の領域を意識した保育活動の具体例
「表現」の領域では、感じたことや考えたことを自分なりに表現する力を養います。
● クレヨンや絵の具を使ったお絵描き
● 粘土遊び
● 合奏
● ダンス
● 劇遊び
● ごっこ遊び
上記のような保育により、表現の領域につなげられます。造形遊びや生活発表会の練習をとおして、感じたままに表現する楽しさを感じてもらいましょう。
設定保育以外でも5領域を意識できる!
外遊びや造形遊びなど、設定保育で五領域を意識する保育士も多いでしょう。しかし、それぞれの領域は、設定保育以外のなにげない自由遊びからもつながります。たとえば、お友達同士で折り紙を楽しんでいる時間は、以下のような領域に沿っているといえるでしょう。
● 手先をつかう「健康」
● お友達と一緒に取り組む「人間関係」
● 季節に合わせた折り紙「環境」
● 折り方を説明する「言葉」
● 思った形に仕上げる「表現」
子ども達がごっこ遊びをしているときも、以下のような領域に沿っていると考えられます。
● 商品やお金の製作「健康」
● お店屋さんとお客さんのやりとり「人間関係」
● お店屋さんをよく観察する「環境」
● 売り買いのやりとりを楽しむ「言葉」
● それぞれの役になりきる「表現」
「とにかく五領域を意識した設定保育を!」と、指導案に力を入れるよりも、普段の生活のなかで五領域を意識した関わりや声かけを意識することが大切です。
まとめ
保育所保育指針に掲載されている五領域。「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5つの領域には、子どもの素質や能力を成長させるためのねらいや内容が定められています。
保育の五領域・3つの柱・10の姿は、各種指導案を作成するなかで欠かせないものです。また、保育士は設定保育中はもちろん、普段の生活のなかでも五領域を意識した関わりが求められます。より良い保育を提供できるよう、理解を深めておきたいですね。