昨今注目されている「小規模保育」というと、園の規模が小さく園児数の少ない保育形態のように想像しませんか?しかし実際の「小規模保育」は、2015年に施行された「子ども子育て支援新制度」により新たにできた地域型保育の中に分類される、新しいタイプの認可保育施設を指します。
では一体、従来の保育園とどこが違うのでしょうか。小規模保育の施設形態やメリット・デメリット、法改正などの社会的な背景も含めて説明していきます。
小規模保育の仕組みや施設形態はどうなっているの?
地域型保育や小規模保育では、どの年齢の子どもたちをどのような場所で保育するのかでしょうか?ここでは対象年齢や保育する場所、小規模保育の成り立ちについて見ていきます。
小規模保育は少人数できめ細やかな保育を行う施設!
定員20人以上の認可保育園と、定員5人以下の家庭的保育の中間に位置する保育施設
小規模保育は0~満3歳未満児が対象で、利用定員は6人以上19人未満。家庭的な雰囲気の中で、少人数の子どもたちにきめ細やかな保育を行うことを目的とした施設です。事業主体は市区町村などの自治体や民間事業者など幅広く利用定員が少ないので、あまり大きなスペースがなくても開設しやすいという特徴があります。小規模保育の目的は待機児童問題の解決!
「保育園落ちた」問題でも知られるように0~2歳児が待機児童の8割以上を占めています。(※1)この問題を受けて、2014年に子ども・子育てのさまざまな問題解決のための『子ども・子育て支援法』が制定。そして、『子ども・子育て支援法』と関連する法律に基づいて「幼児教育・保育」「地域の子育て支援」の量の拡充、質の向上を進めていくことを目的とした『子ども子育て支援新制度』が2015年に始まりました。『子ども子育て支援新制度』では、待機児童の多い年齢層の受け皿確保を目的として、幼児教育・保育の場として新たに地域の実状に合わせた「地域型保育事業」が進められています。地域型保育とは保育園(原則20人以上)より少人数の単位で、0~満3歳未満児の子どもを保育する事業のことで『家庭的保育』『事業所内保育』『住宅訪問型保育』と、今回紹介する『小規模保育』の合計4つに分類されます。4つの分類の役割は以下の通りです。(※2)家庭的保育…家庭的な雰囲気の元で少人数(5人以下)の保育
小規模保育…少人数(6~19人)を対象に家庭的に近い雰囲気で行う保育
事業所内保育…会社の保育施設で従業員の子どもと地域の子どもとを一緒に行う保育
住宅訪問型保育…障がいや疾患などで個別のケアが必要な場合にそれぞれの自宅で1対1で行う保育
小規模保育は待機児童の多い都心部で普及してきている!
保育園を作ることが難しい都心部にも待機児童の受け皿として設置しやすい
小規模保育数増加は「待機児童解消加速化プラン」ができたことで2013年度から2017年度までに約50万人分の保育の受け皿を確保する、という取り組みが国全体で動き出したことが背景となっています。受け皿拡大のための新たな幼稚園・保育園を作るには、土地の確保や建物の建設のための時間が多くかかります。反対に、小規模保育は定員が少ないので保育スペースを確保しやすく、マンションやビルの一室などに設置可能です。そのため、早ければ数ヶ月で子ども達の受け入れを開始でき、都心部や待機児童の多い地域のニーズに素早く応じられるというメリットがあるので、普及してきていると考えられます。また、「子ども子育て支援新制度」ができた2015年からの1年で施設数が1,655園から2,429園に増加していることから、小規模保育は待機児童解消に向けて重要な役割を担っていることが分かります。(※1)どこにでも設置しやすく待機児童の多い年齢層の受け皿として適している小規模保育は、待機児童解消のために今後も広がっていくことでしょう。(※1 厚生労働省 「地域型保育事業の認可件数について・地域型保育事業の件数について」より)小規模保育の施設形態はA型・ B型 ・C型の3種類!
保育園の設置には、職員数、定員(預かる子どもの人数)、職員の資格、保育室の面積について基準があります。従来の認可保育園の基準は『保育士の人数は、0歳児は3人に対して1人、1歳児・2歳児は6人に対して1人
』『保育室の面積は、0歳・1歳が1人当たり3.30㎡、2歳児が1人当たり1.98㎡
』 そして、職員全員が保育士資格所有者
でした。(※1)しかし、小規模保育の場合は以下のA型・ B型 ・C型に分類され認可基準がそれぞれ異なります。(※2) 小規模保育の働き方や給与はどうなの?
小規模保育とはどのような特徴をもつ施設で、どのような目的や背景があるのかを見てきました。ここからは勤務形態や給与面など、保育士として小規模保育で働く際の情報をお伝えしていきます。
アットホームな雰囲気で働けるのが小規模保育!
小規模保育はアットホームな雰囲気の中で保育ができる
保育施設です。通常の保育園のクラス運営では受け持つ年齢が高くなると何十人もの子どもを1人で見ることになりますが、小規模保育では全体数が最大19人。また、A型・B型の施設であれば保育士の設置基準が保育園の基準プラス1人となっているため、少ない人数の子どもたちを多くの保育士の目で見守ることができます。そのため、個々の発達に合わせた必要な援助や配慮を行いやすい環境
です。 小規模保育の給与は今後の増加が見込まれる!
小規模保育は文字通り小規模なので「園児数が少ないので財源確保が難しく、給与額が幼稚園や保育園で働くのと差が出るのでは…」と心配になる人もいますよね?一人当たりの2016年3月分の月額給与は、勤務先の園の規模や勤続年数によっても異なりますが私立保育園に勤務の保育士 271,687円
私立幼稚園に勤務の教諭 255,855円
認定こども園に勤務の保育教諭 249,696円
小規模保育施設(A型)勤務の保育士 238,724 円となっています。(※1)これだけを見ると小規模保育で働くと給与が低いように感じられます。しかし、認可事業となったことで国の処遇改善加算の対象に加わったため、今後の普及と共に給与額のUPが見込める
ようになりました◎また、幼稚園・保育園で働くことと比べて雑務が少なく「仕事量の割にしっかり給与がもらえる」と感じられるかもしれません。給与が高くて忙しい職場が良いのか、給与は他より少なくても仕事内容に満足できる職場が良いのかは各々の考え方もあるので、ご自身の理想に合った職場探しをして下さいね。(※1「厚生労働省平成28年度保育所・幼稚園・認定こども園等に係る実態調査等の集計結果概要について」より) 小規模保育で働くメリット
ここからは小規模保育で働くメリットを5つご紹介します。他の保育園ではなく小規模保育園の保育士だからこそ享受できる魅力が満載ですよ。
1.乳児の保育に携われる!低年齢児保育に関わりたい人におすすめ
一般的に保育園だと、どの年齢を受け持つかは新年度になってみないと分からないものですが、小規模保育園で預かる子どもは0~満3歳未満と決まっているので、3~5歳の幼児を受け持つことはありません。そのため、乳児期の子どもたちの保育が好き!乳児クラスを受け持ちたい!
といった保育士さんにはピッタリの職場です。 2. 低年齢児だからこそ!体力に自信のない人も働きやすい
小規模保育は預かる子どもの年齢が0~満3歳未満なので、幼稚園や保育園の3〜5歳児のようなダイナミックな遊びをすることがありません。また、運動会や発表会といった保育士さんの仕事量が著しく増える行事も行われなかったり、行われたとしても規模が小さいです。そのため「保育士として働きたいけれど体力的に辛い」と感じている人には働きやすい職場環境
と言えます。また、預かる人数に対して保育士の割合が多くなるので、書類仕事や日々の雑務も分担すればとても少なくなるという嬉しいメリットも◎雑務が少ないことで、日々の教材研究や保育に専念できるので「自分の保育を深めたい」「こういう保育をしたい」という思いを実現しやすい
です。 3. 子育て経験を仕事に活かせる!
0~満3歳未満の子どもたちを預かるのが、小規模保育の保育士の仕事。多種多様な遊びをするなど個人差の大きい幼児よりも、おむつ替え・離乳食といったルーティンが決まった乳児の方が子育て経験を活かしやすい
です。子育て経験のない保育士から頼りにされてやりがいを感じることもあるかもしれません。 4. 園全体を見渡しながら子どもたちにじっくり向き合える!
小規模保育は少人数のため、子どもたちや保護者一人ひとりの顔と名前を覚えて交流することができます。そのため、子どもたちにじっくり向き合う
ことや、保護者と丁寧に連絡を取り合うことがしやすい環境
です。勤務する保育園全体の子どもたちのことを把握することもでき、園全体を引っ張っていく大きな裁量権を感じられます。 5. アクセスが良い場合が多い!
小規模保育園は「働く保護者の就労状況による多様な支援の量の拡充」と「待機児童解消に向けた受け皿の拡張」を目指して作られているので、待機児童が多い都心部に集中
しています。また、ビルの一角や商業施設の中にでも作ることができるので、駅から5~10分といった「仕事に行く保護者が預けやすい」立地にあることが多く、働く保育士さんの通勤にとても便利な環境
です◎ 小規模保育で働くデメリット
小規模保育でのデメリットはそれほど多くありませんが、乳幼児対象であったり、小規模の施設であるがゆえに「こんなはずじゃなかったのに…」と感じることもあるようです。
どのようなデメリットがあるのかを読みながら、自身の保育観に合っているか考えてみて下さいね。
1. 行事の達成感や子どもたちとの一体感が少ない
小規模保育園では保育する子どもの年齢が低く子どもの人数も少ないので、運動会や発表会などの大きな行事がなかったり、あったとしても保育園や幼稚園のように大規模に行われることはありません。そのため、行事を企画・運営していくといったスキルは身に付きにくい環境です。また、クラスの子どもたちと一丸となって作り上げていく過程や、行事をやり終えたあとの達成感や満足感は味わうことができないため、運動会や発表会などの行事に力を入れている幼稚園・保育園で勤務していた保育士さんは物足りなく感じるかも
しれません。 2. 保育士一人ひとりの責任が大きい
小規模保育で預かる子どもたちは、言葉で思いを伝えることができない年齢の子どもも多いので、一人ひとりの様子をしっかりと視診し、必要な援助をしなければなりません。そのため、「私の担当は、この子だから」と一部しか見ていないとヒヤッとすることもあり、初めて乳児を受け持つ保育士さんは、神経がすり減ってしまうことも。また、勤務場所にもよりますが、在籍する保育士さんの数が少ないところが多いため急な休みが取りにくい
場合もあります。そのこととは別に、小規模保育B型やC型の施設では、有資格者だけでなく「家庭的保育者」が一定数勤務しています。家庭的保育者とは、市区町村が行う『座学21時間+実習2日以上の基礎研修と座学88時間+実習20日の認定研修』を受けることでなれる、家庭的保育事業と小規模保育事業で保育業務に携わる人材のことです。(※1)専門知識を習得しているといっても、有資格者とはそれまでの経験年数や経験内容が違うので、業務上のフォローが必要になってくる場合も。そのため、経験のある保育士資格保有者に雑務が集中してしまうことが考えられるので、職員間で業務内容の分担がどうなっているのかを確認しておく方が良いでしょう。(※1「厚生労働省家庭的保育 研修カリキュラム」より) 3. 保育内容を考えるのが大変
保育内容を考えるとき、預かる年齢が0~満3歳未満なのでできることが限られてきます。また、集中力が短く・飽きるのが早いという発達段階なので、幼児クラスのように「時間をかけて根気よく」何かをさせることは極めて難しいです。また、「あの子は楽しんでいるけれど、この子は飽きてしまっている」「昨日は楽しんでいたけれど、今日は全く興味を示さない」といったことも感じ取り、保育内容を臨機応変に変えていく柔軟性が求められます。
そのためには、子どもたちを飽きさせないためにいつでも取り出せる保育のネタが必要です。そういった保育の引き出しを増やすための教材研究の手間が増える
ので、負担に感じることがあるかもしれません。 4. 施設自体のスペースが狭い
小規模保育は待機児童が多く土地が少ない都心部に多いということもあり、施設自体も小さい傾向があります。狭いスペースで子どもたちの世話をしたり遊ばせたりする力が求められます。小規模保育では園庭がない保育園も存在します。その場合、園外の公園まで移動して遊ばせることで安全面の責任が必要
となります。広い保育施設の中で子どもたちを伸び伸びと育てたい保育士さんは、小規模保育よりも大きな保育園や幼稚園の方がおすすめです。 5. 転職の時に、3歳児以上の経験はアピールできない
乳児クラスと幼児クラスでは発達段階や保育のねらいも異なるので、保育園勤務経験者でも3・4・5歳児を受け持つことが多かった場合、これまでの経験がアピールしにくいといえます。逆に、幼稚園勤務経験者だった場合には『教育の場』から『養護の場』に変わるので、対象年齢の違いだけでなく保育観への戸惑いも生まれるかもしれません。このような場合には「どのような志望動機にするか」「面接でのアピールポイントはどうしたらいいか」「小規模保育が果たして向いているのか」というのは、転職サイトの専門アドバイザーに相談するのも一つの方法
です。 小規模保育で働くのに向いている人・向いていない人
小さな変化や成長に気付ける人に向いている!
小規模保育では複数担任のような形態になるので、コミュニケーション能力が高い人の方がスムーズに仕事がしやすくなります。
また、乳児期の保育というのは基本的生活習慣の自立のために、同じことの繰り返しになることがほとんど。
そのため、根気よく伝えることが苦にならない人・子ども達の少しの変化を敏感に感じ取ることのできる人・小さな成長を喜べる性格の人が向いています。
そしてなにより「幼児クラスよりも乳児クラスを受け持ちたい」「子育ての経験を活かしながら、アットホームな環境で働きたい」「少人数の子どもを手厚く保育したい」そんな人にはオススメの職場です◎ 幼児クラスのやりがいを求めるなら向いていないかも…
一人担任と違い保育の全てを自分の自由にということはできませんし、保育内容も設定保育よりも自由遊びやお散歩、基本的生活習慣の自立に向けて…といったことがメインになります。
そのため「戸外で伸びのびと子ども達と活動したい」「自身の保育観に合った設定保育をたくさんしたい」という人は、乳児よりも幼児クラスの方が希望が叶えられます。
また、行事による達成感や充実感やりがいを求める場合は、小規模保育よりも規模の大きな保育園や幼稚園で働くことをオススメします◎ 小規模保育で一人ひとりに合わせた保育に挑戦しませんか?
保育園は、子どもたちにとって初めて触れる家庭以外の社会。0~3歳児は未熟なので「保育士の援助・配慮が多く必要になる」という大変さ
もありますが、愛情をかければかけるほど”愛着”形成ができるのでたくさんの笑顔を見ることができます。
そして、”成長”という目に見える形で自身の保育の成果が見えるステキな時期でもあります。そんな年齢の子どもたちを保育する小規模保育は、一人ひとりとじっくり関わり、子どもたちの成長を保育士や保護者と共有できることが魅力
です!深刻な待機児童問題の解消に向けて作られた「小規模保育」は今後も地域の教育・保育のニーズに合わせて増加していくことが予想されます。今後、職場環境を変えたい・子育て経験を活かしたいと考えている方は、「小規模保育」も視野に入れてみてはいかがでしょうか?また、小規模保育園でなくても、少人数でアットホームな環境での保育を教育理念にしている保育園も存在します。「どんな職場があるのかな?」「小規模保育についてもっと知りたい」「小規模保育のような環境で働いてみたい」という方はアドバイザーに気軽に相談してみて下さいね◎専門のアドバイザーが、親身になってお答えします!