保育士のみなさん、残業や持ち帰り仕事はどのくらいしていますか?
朝子どもを迎えてから夕方に保護者のもとに返すまで、8時間しっかりと子どもたちをみて…勤務時間中は保育だけで精一杯!今日中にやりたいけどできなかった書類作成などの仕事を、自宅に持ち帰っている保育士さんは多いのではないでしょうか?
園からの指示ではなく、あくまで“自主的に”持ち帰って仕事をするため、なかには残業と認められず残業代が支払われないケースもあるといいます。
あなたの職場はどうですか…?
誰もが「少しでも減らしたい!」と願う残業について、今回は、保育現場のリアルな実態や負担を軽くするためのアイデアについてお話していきたいと思います。
労働基準法における残業と割増賃金
あなたの園で行われている残業がどのような取扱いになっているのかを確認するためにも、労働基準法での時間外労働について知っておきましょう。”労働基準法”と聞くと難しいイメージを持ってしまいがちですが、ここでは保育士のケースに当てはめて、残業とその賃金についてわかりやすく説明していきます。
残業には「割増しになるもの」と「ならないもの」がある
残業とは決められた労働時間を超えて仕事をすることをいいますが、残業には2つの種類があります。
①「法定時間内残業」…雇用者が定めた所定労働時間(※A)を超えて、法定労働時間内(※B)に行われた残業
②「法定時間外残業」…労働基準法で定められた法定労働時間を超えて行われた残業
※A 所定労働時間:雇用者が定めた労働時間
※B 法定労働時間:労働基準法で定められた労働時間。原則1日8時間、週40時間まで
残業をすると割増賃金が発生するというイメージがあると思いますが、割増になるかどうかは、その労働時間が法定労働時間の中に収まっているか、収まっていないかによります。上の2種類の残業のうち、割増賃金の支払義務があるのは②の法定時間外残業だけです。
賃金の割増率は、時間外労働の場合は2割5分以上(休日労働の場合は3割5分以上)と定められており、この場合の残業代は
①の場合 法定時間内残業の時間数×就業規則等で定める1時間あたりの賃金
②の場合 法定時間外残業の時間数×就業規則等で定める1時間あたりの賃金×1.25
となります。
例として、保育所での一般的なシフトの中番に当てはめてみましょう。
8:30~17:00までのシフトの後、19:30まで残業したとします。
保育所でのシフトである8:30~17:00(休憩60分)の所定労働時間は7.5時間となります。
8時間までは法定労働時間内になるので、17:00からの2時間半の残業時間のうち、17:30~19:30の2時間だけに割増が発生することになります。
同じように見える残業にもこのような違いがあります。自分の残業がどちらにあたるか知っておくことも大切なことですので、気になる方は採用時の雇用条件を確認してみてくださいね。
残業に上限はある?
2019年4月(中小企業では2020年4月から)「時間外労働の上限規制」が導入されました。厚生労働省の働き方改革の一環で、働きすぎを防ぎ、ワークライフバランスの改善と多様で柔軟な働き方の実現を目指すことを目的としてしています。この規制では、時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめられるべきものとしたうえで、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間と定められています。1か月の勤務日数を20日として、上限である月45時間を1日の残業時間に換算してみると、平均で2時間15分。毎日の残業時間がこれを超えている場合は労働基準法に違反している可能性がありますので注意しましょう。また、”臨時的な特別の事情がある場合”には特例が認められていますが、この場合でも・年間で720時間以内・2~6か月の平均が全て80時間以内(休日労働を含む)・単月で100時間未満(休日労働を含む)・月45時間を超えることができるのは年間で6か月までという制限があり、違反した場合は雇用主に罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されることがあります。(参照:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)保育所においての”臨時的な特別な理由”には、運動会や生活発表会などの大きな行事の準備などが考えられます。行事前は仕事量の増加に伴い、残業時間が増えることが多いと思いますが、こういった場合でも年間の上限時間を超えていないか把握しておくことをお勧めします。 毎日のサービス残業...仕事の持ち帰りも当たり前
残業をなるべく発生させず、残業が上限を超えないためには雇用者の細かな労働時間管理が必要となります。しかし、人手不足が深刻な保育業界。ひとりひとりが抱える仕事量はどうしても多くなり、多くの残業が発生しているのが実情です。では、残業が付きものと言われる保育業界の日常は一体どのようなものなのでしょうか?
山ほどある「その他の仕事」そして持ち帰り
日案、週案、月案、児童表などの書類作成や、壁面製作、おたより作り、製作の下準備…
保育士の仕事には、このような子どもたちをみること以外の「その他の仕事」がとても多くあります。
保育所の一日は、部屋の清掃を行い、子どもたちを迎え入れることからスタートします。
着替えや出席確認を済ませて、外遊びや散歩、年齢に応じた設定保育を行い、お昼が来たら給食タイム。そして、お昼寝(その間に5分ごとの呼吸確認と連絡ノートの記入)、おやつが終わったら室内遊びや絵本の読み聞かせをして、お迎えまでの時間を過ごします。保護者がお迎えに来たらその日の子どもの様子を伝え、さようなら!と送り出してほっと一息…その後、掃除をして一日の報告をまとめていると勤務時間は終わってしまいます。
そこから「その他の仕事」の残業がスタート。そして、終わらない仕事は持ち帰り。
「はい、私もです。」と思われた保育士さんは多いと思います。
このようにいつも忙しい保育所での仕事ですが、そこに行事の準備が重なるとさらに多忙に…!
勤務時間内に発表会の衣装や小道具を作る時間はなかなか取れず、自宅に持ち帰って徹夜で作業、という話も少なくありません。
これらの仕事は園での活動に関わる内容ですから、本来なら時間外労働として給料が発生するもの。しかし保育所では、クラス運営は基本的に各担任に任せられており、園側はこのような状況を正確に把握していない(または見て見ぬふり…)場合がほとんどです。
悲しいですが、これが多くの保育士さんの現状となっています。
また、持ち帰った仕事はプライベートな時間の中で行われるため、保育士さん自身も自分がどれくらい持ち帰り残業をしているのか把握していないケースがほとんどでしょう。
保育業界では普通となってしまっている、プライベートを削っての持ち帰り仕事ですが、一般の職種では普通のことではありません。
好きなことを仕事にしており、「子ども達のためなら」という気持ちがベースにあることから、保育士はプライベートと仕事の線引きを曖昧にしてしまいやすい職種なのです。
ゆっくり休憩できない
みなさんの職場では休憩時間は取れていますか?
保育所内に休憩室が設置されている園では、子どもと離れて休憩時間を過ごすことができます。ほんの少しの時間でも子どもから離れリフレッシュすることができれば、保育の質の向上にもつながりますよね。
一方、休憩室が設置されていない園では、保育室の傍らで休憩を取ることに。休憩時間中とは言っても、子どもが泣いたりトイレに行くなど、何かあれば無視するわけにはいきません。これでは休憩しているとは言い難いですよね。
また、子どものお昼寝中に交代で休憩する、と決められている場合もありますが、事務作業や作り物、連絡ノートの記入に追われて、結局休憩する暇もなく過ごすということもよくある話です。
自分がトイレに行く時間すら取りにくく、膀胱炎になる保育士さんは多いと聞きます。
保育士の「自己犠牲の精神」が残業を増やす…!?
では、保育業界の残業は、なぜこのように当たり前になってしまっているのでしょうか?
そこには保育の世界独特の「自己犠牲が美化される」という背景があります。
「どんなに忙しくても子ども達のためなら無理しても平気!」
「子どもの安全が一番だから、自分の休憩よりも子ども達を見る」
「担任を受け持っているのだから、休日にプライベートを削ってでも仕事を優先する!」
これらの考え方を”当然”と感じた方は要注意です…!
保育現場で長く過ごすうちに、いつしかこのような「自己犠牲=子どもへの愛情」という状況を”普通”と感じるようになってしまいます。
責任感があり、頑張り屋さんが多い保育士さん。
「自分さえ頑張ればいい」という自己犠牲的で謙虚な姿勢もまた、残業を園に見て見ぬふりさせる一因になってしまっています。
そうして一人で頑張っても、体力や気持ちに限界がきて体調を崩してしまうことになれば、結果的に大切な子ども達にも悲しい思いをさせてしまう結果になりかねませんよね。
しかし、現状として保育士の自己犠牲に寄りかかって運営を維持している保育所は、残念ながら少なくありません。
心当たりがあると感じたときは、少しだけ冷静な目で自分の職場を見てみることをおすすめします。
ハードすぎる!保育士の残業の実態とは?
ここからは残業について、実際に保育士さんの声を聞いてみようと思います。
その1:行事前は準備が重なって超多忙(保育士/23歳女性)
保育所の生活に欠かせない季節ごとの大きな行事。その中でも一大行事である生活発表会は準備が大変です。
自分のクラスに合わせた台本作りから始まり、ピアノ曲の練習、衣装や小道具、大道具を作って…。到底、これだけの作業を務時間内にできるはずもなく、自宅に持ち帰ることになりました。
が…!毎週末のプライベートな時間をすべて当てても間に合わない(:_;)結局、家族総出で手伝ってもらい、何とか間に合わせました。 大きな行事前になると仕事量が増え、残業や仕事の持ち帰りを前提としている保育士さんは多いと思います。そうして頑張った結果得られる達成感は何事にも代えがたく、保育士が大きなやりがい感じる瞬間でもありますよね。しかし、息抜きや睡眠時間を十分にとれず身体を壊してしまっては大変!気が付いたら心も体もボロボロに…とならないように注意しましょう。その2:実習生の指導で時間が足りない(保育士/27歳女性)
日案、週案、月案、おたより作り。1か月の中でも月末に向かう週は特に手一杯です。
そこに実習生の受け入れ期間が重なるとさらに大変。
保育時間が終わってからの毎日の振り返りに時間を取られ、実習記録のチェックや指導と、とてもじゃないけど手が回りません。相方の先生はまだ新人で任せることもできず、私がすべてやらなくてはなりません。
毎日給食を猛スピードで食べて、休憩時間返上でなんとか対応しました。 ただでさえ忙しい毎日。実習生の存在を負担に感じてしまうこともあると思いますが、未来の保育士を育てることも大切な仕事の一つ。自分自身の実習体験を振り返りながら、大きな気持ちで指導してあげましょう。また実習生と関わることで、手遊びなどの最新の保育ネタを知ったり、忘れていた気持ちを思い出すきっかけになることもあります。自分にとってもプラスになる機会と捉えて、前向きに受け入れてあげられるといいですね。その3:先輩が帰るまで帰れない(保育士/22歳女性)
自分のクラスの仕事が珍しく早く終わり、次の日に備えて久しぶりに早めに帰宅。
すると翌日、先輩から呼び出され注意を受けました。「先輩が残ってい仕事をしているのに、先に帰るのはどうかしら?何かできることはありませんか?と聞くのが当然でしょう。」と…。
先輩が残業しているときは先輩が帰るまで帰れず、逆に、先輩が早めに帰るときは自分達も早めに帰らなくてはいけない雰囲気。当然、終わらなかった仕事は持ち帰りです(-_-;) おかしな風習ですがこのような「先輩が絶対」という雰囲気の保育所は少なからずあります。同じように感じている保育士はほかにもいるはずですが、園全体のこのような雰囲気を変えることは簡単ではありませんよね。仕事を続けていく中でどうしても辛いと感じたときは、他の園への転職を考えてみるのも一つの方法かもしれません。日々の小さなストレスも、溜まっていけば大きな悩みになります。日頃から同年代の保育士に相談したり、気軽に情報交換できる先輩を持つなど、職場でのストレスをため込まないようにしましょう。残業を減らすために!今すぐ試してほしいアイデア3つ
保育士の仕事量はいうまでもなく多く、なかなか勤務時間内でこなせる量ではありません。
そもそもこの時点でおかしいのですが、だからと言って保育士1人の力ですぐに園の労働環境を変えるのは簡単なことではなく…。「じゃあどうしたらいいの(:_;)?」と悩む保育士さんのために、ここからは、保育士さんの負担を少しでも軽くする今すぐできる3つの方法を取り上げていきます。
1.書き出して視覚化する
自分が今持っている仕事はどれだけあるのでしょう?
月ごとのスケジュールに沿って、自分がやるべき仕事内容を書き出して視覚化してみましょう。
このように今抱えている仕事を書き出すことで、スケジュールを把握、見通しをもって仕事をすることができます。週末に仕事が偏りすぎていないかなど、スケジュールを見直しながら仕事を進めていきましょう。
そして書き出すことにより、自分がどのくらい残業しているのか、状況の把握にもつながります。
2.あいさつ例文・イラスト素材は空いた時間にストック
行事と行事の隙間時期などの比較的時間のあるときに、1年分のあいさつ文例やイラスト素材をストックしておきましょう。オリジナルで作るのが苦手な場合は、自分が使いやすい参考サイトをブックマークしておくだけでも〇。
自分なりに使いやすいものをまとめておけば、いざというときに時間の短縮につながります。
3.壁面・製作アイデアの情報集め
経験を重ねていくごとに慣れて徐々に効率は上がっていきますが、それでも手作業で行う製作にはどうしても時間がかかってしまうものです。では、この作業を少しでも効率化するにはどうすればいいのでしょうか?例えば壁面製作。子ども達から「かわいい!」と評価されれば嬉しいですし「少しでもいいものを作りたい!」と思いますよね。しかし壁面は、デザイン案から作製まで拘ればどこまでも拘ることができるもの。全体的なバランスがOKであれば完成!と次々にこなしていくことも重要です。「目標は完成度80%」など、自分なりにラインを決めて進めていきましょう。毎月のアイデアに困ったときはインターネットで検索してみるのもオススメです!保育の素材に困ったら、こちらのページも参考にしてみてくださいね↓保育アイデア集 まとめ
せっかく就いた保育士という仕事。多くの人は、1年や2年ではなくもっと長い年数続けていきたいと思っていますよね。しかし現実には、多くの保育士さんが毎日の残業に疲れて仕事を続けていくことが辛いと感じています。
ここで紹介した3つのアイデアを取り入れながら、少しでも毎日の負担を減らしてみてくださいね。
そうして頑張っていくなかでも”園全体に残業を肯定する雰囲気がある”、”園側に全く改善する様子が見られない”と感じた場合は、長期的に見てほかの園への転職を考えてみるのも一つかもしれません。
「子どもを育む」という大変ですが魅力の詰まった尊い仕事。ぜひ、夢を持って長く続けてください。