多くの園で年に数回やってくる実習生。後輩を育てるのも保育士の大切な仕事、と分かってはいても、普段から忙しい保育士さんにとって通常の保育をしながらの指導は大仕事です。
実際の保育現場では、実習生が来ると子どもたちが落ち着かなくなる、実習日誌への返信やアドバイスで、もともと少ない休憩時間がさらに少なくなる、などの声が聞かれます。「正直負担です…」と感じている保育士さんは少なくないのではないでしょうか?
今回は、そんな実習生の指導を少しでも効率的、効果的に進めるためのポイントについてご紹介します!
保育実習生の指導係になった!どうすればいい?
クラス担任を受け持っている保育士は、実習生を指導することとなります。
なかには担任一年目で、通常の保育だけでも余裕がないのに指導を任される、ということもあります。
実習指導をスムーズに進めるために、事前に確認しておきたいことや実習生への声掛けのポイントについて見ていきましょう。
こうするとスムーズ!実習に入る前に伝えておきたいこと
こちらが「保育実習生として当たり前」と思っているようなことでも、まだ学生である実習生には通用しないこともあります。実習が始まってからイライラ…ということにならないよう、分かっておいてほしいことを事前に確認
しておき、保育実習を始めると安心です。 ①実習の目的を意識させよう
実習が始まる前に「実習の目的」を確認します。実習の目的は園や学校によっても違いますが、大まかに ①子どもの特性を知る、子どもを見る目を養う ②保育者の仕事を知る ③保育者としての経験をする ④社会的なマナーを身につけるといったものがあります。何のための実習なのかを初めに確認し、実習生として学ぶ姿勢を今一度認識してもらいましょう。
②園の方針を伝えよう
『子どもたちの自主性を重視、保育士は必要以上に声掛けをしない』『子どもは名字で呼び、あだ名は付けない』『家庭的な雰囲気を大切にしているのでジャージは着ない』など、保育園にはそれぞれのカラーがあります。保育士からすれば「現場を見ればわかるでしょ?」と思うようなことでも、経験のない実習生にとって、園の方針やカラーを読み取ることは容易ではありません。実習が始まる前に園の方針を説明する
ことにより、トラブルを避けスムーズに実習を進めることに繋がります。 指導・声掛けのポイントは?
実習生から見て、現場でバリバリ働く保育士は憧れの存在。
こちらが思っているより、実習生は保育士を近寄りがたい存在と感じています。保育士の側から積極的に声を掛け、指導してきましょう。
まずは 積極的な声掛け!
自分が実習生だったころを思い出してみてください。毎日緊張しながら慣れない場所での実習。帰ってからは実習日誌や指導案の作成で、寝不足の毎日だったのではないでしょうか?そんな中での保育士からの一言は、実習生の気持ちを前向きにする大きなきっかけ
になります。「今日も頑張ろうね」といった簡単な一言でいいので、保育士の側から積極的に声を掛けてあげましょう。また、実習生から質問があった場合は「こんなこともわからないの?」といった態度ではなく、どんなものでもまず受け入れて聞いてあげましょう。 常に『保育者としての視点』を持ってもらう
朝の迎え入れ、自由時間、昼食時、絵本などの読み聞かせ、降園など、実習生にはすべてが勉強の場面です。常に当事者意識や疑問を持ち、吸収しようとする姿勢で実習するように声を掛けましょう。実習生は、環境整備や設定保育といった「これをする」と決まった活動の場面では、保育士や子どもの動きによく注目しています。しかし、それ以外の何気ない場面では保育士の動きに鈍感になってしまうことが多いものです。例えば、自由あそびの時間中。保育士はただ園庭に立っているように見えますが、保育中の保育士は常に意図を持って行動していますよね。「今園庭に立っている保育士には、どのような意図があると思う?」「この場面では、自分だったらどうする?」など声を掛けてあげましょう。何気ない場面でのこのような小さな声掛けにより、保育士としての目線に気付くきっかけとなり、実習の内容をより濃いものにすることができます。常に保育者としての視点を持つことを意識してもらい、その力を養えるようにしましょう。
「疑問に感じたことは、必ずその日の振り返りのときに聞く」「聞けなかったことは日誌に質問として記入する」といったルールを徹底するのもいいですね。質問を考えよう、という目で保育を見るようになり、実習生の積極性
が引き出されます!
これで完璧!実習日誌添削の6つのポイント
自分が実習生だったころ、指導係の保育士からの赤入れで、実習日誌が真っ赤になった…という経験をした人は多いのではないでしょうか?
日誌の添削にはとても時間がかかり、実習生指導の中でも一番大変な仕事といってもいいかもしれません。そんな日誌の添削もポイントを押さえれば効率アップ!早速その方法を見ていきましょう。
①まずは全体に目を通そう
実習日誌の作成には、子どもと保育士の動きを記録しそれを基に考察をして次回に活かす、という目的
があり、保育士として成長する上での大切な第一歩です。日誌全体に目を通して、実習生が今回の実習で何を学びたいのか、どこに注目しているのか、を読み取ります。 ②誤字脱字をチェック
無いのが理想ですが意外と多いのが誤字脱字。気が付く限り指摘しましょう。
③“ただの記録”になっていないか?
学校による違いはありますが、大体の実習日誌には「子どもの活動」「保育者の援助」「実習生の活動」を書く欄があります。実習生の記録で初めのころにありがちなのが、「行動」のみを記入したもの。“保育士の行動がどんな意図を持って行われたものなのか”に気づくことが、実習日誌を書く目的のひとつです。
行動のみの記録となっている場合は「このとき保育士が~したのは何のためでしょう?」など、保育の目的を考えるように促しましょう。 ④「表現の違い」を指摘する
実習生の日誌にありがちなのが「~させる」「指示を出す」といった表現。保育士が子どもに何かを「させる」ことはありません。保育の現場では「~するように促す」「声掛けする、次の動きを伝える」といった表現が適切ですよね。この指摘は、単に言葉の違いの指摘だけでなく、“保育士としての子どもへの関わりそのもの”を学んでもらうことに繋がります。
このようなことに気づくことができるのも、実習日誌の大きな役割です。 ⑤保育の目的とずれていないか?
保育において大切なのは、保育活動に込められた“ねらい”です。しかし、実習生が保育士の行動から“ねらい”を読み取るのはなかなか難しいもの。
ときに保育者のねらいとはずれた認識をして、日誌に記録することがあります。例えば、お片付けの時間になっても集中して遊びつづけている子どもがいたとします。保育士は、その子の性格や日々の様子を踏まえた上で、少し見守っていました。しかし、見守っている理由がわからない実習生は「保育士は声を掛けず子どもを放ったらかしていた」と実習日誌に書きました。このように、実習生の記録が保育士の“ねらい”とずれている場合は、保育士のねらいや想いがあることを伝え、行動の意図を理解できるようにしましょう。 ⑥意欲がUPするコメント!
毎日緊張しながら実習に臨んでいる実習生。正解が分からない手探りの実習のなかで、保育士からのコメントは大きな影響を与えます。よいと感じたことは些細なことでも伝えて、自信をもって実習に臨めるようにしてあげましょう。さらに、意欲的に取り組んでいる実習生に対しては「~のとき周りの子の様子はどうでしたか?」「~のとき先生ならどのように伝えますか?」など、一歩踏み込んで保育への理解がより深まるようなコメント
を書きます。実習生の”気づき”に繋がるコメントを書いて、その後の実習生の様子をみてみましょう。 重要なことは簡潔に指摘、そしてダメ出しだけでなくよいところもピックアップ!
実習生のモチベーションアップに繋げましょう!
帰宅後、落ち着いた状況で読む“保育士からのコメント”は、実習生が冷静に自分の活動を見直すきっかけとなります。
日誌を通して伝えることで、対面して行う毎日の振り返りとはまた別の効果が期待できますよ。
困った保育実習生。こんなときどうする?
保育のプロを目指している実習生。しかし、中にはなんとなく実習に参加する「意識の低い実習生」も。そんな実習生を指導するのは大変なことですよね。保育士さんが困った実例と解決に向けたアドバイスを見ていきましょう。
困った実習生① 身だしなみがなっていない
どう考える?どう解決する?➡実習内容以前に身だしなみに問題がある場合、指導係として放置するわけにはいきませんよね。実習生と言っても子どもたちにとっては先生です。子どもや保護者にとって、どんな保育士が信頼できるでしょうか?「保育現場で安心感を与えられる存在であるために、見た目や雰囲気は大切」
という、保育においての身だしなみの意味を伝えるようにしましょう。ただ単に禁止、というだけではなく、なぜ整った身だしなみが大切なのかを理解してもらうことが重要です。 困った実習生② 指示されたことしかやらない・私語が多い
どう考える?どう解決する?➡
実習中は全てが勉強の場。たとえ自由遊びの時間であっても、本来は私語をする隙間などないはずです。最初に伝えた「実習の目的」を実習生に再確認
し、常に保育士や子どもの動きに注目するように声を掛けましょう。 困った実習生③ 先生に叱られた子どもを甘やかす
どう考える?どう解決する?➡
先生に叱られた子どもが実習生に逃げる、ということはよくあります。子どもたちは「実習生は優しくて厳しいことを言わない」と分かっているからです。こんなとき、信頼関係が十分に築かれていない実習生が、保育士と同じように子どもたちを叱ることが必ずしもいいとは言えませんし、実際対応できない場合が多いでしょう。保育士は普段と同じように子どもに対応し、その姿を実習生にも見てもらいます。
そして徐々に「やさしくて叱らない人」ではなく実習生自身が保育士としての動きをできるように指導しましょう。 困った実習生④ 特定の子どもとばかりかかわる
どう考える?どう解決する?➡
子どもたちは実習生が大好き。積極的な子は、ここぞとばかりに実習生に甘えます。実習生も嬉しくなって、つい懐いてくる子どもばかりを構いがちです。自分から甘えられないタイプの子にも目を配り、実習生の側から全体にかかわるよう促します。
困った実習生⑤ ピアノや手あそびが苦手
実習時は緊張もあり、前に出て行うピアノや手あそびが上手くいかないことが多いものです。
実習生は大きな失敗をしたと捉え、ひどく落ち込んでしまうことも。しかし、ピアノや手遊びなどは経験により自然と慣れていくものですよね。事前の努力が見える場合の失敗は、たとえ失敗してもそれ自体は大きな問題ではないと伝えましょう。
次回上手くできるように、日頃からの練習や事前の準備をしっかりするように指導します。
保育士も人間なので、ひとつ悪いところが目につくとついついアラばかりが目に付いてしまうこともあります。分からなくて当然!できなくて当然!
という広い心で受け入れ、指導するようにしましょう。
実習生から自分も学ぼう
プロの保育士ではないからこそ、素直な目線で子どもたちを観察し、保育士では気づかない部分に気づけることがあります。研修期間中の学生ではありますが、交流することで角度の違った意見や目線を得るきっかけになるかもしれません。
また実習生ならではの新しい手遊びや流行りの絵本を教えてもらうのもいいですね。
大きな気持ちで実習生を育てよう!
今保育士として活躍しているみなさんにも実習生の時代があり、指導してくれた先輩保育士がいたのではないでしょうか?
実習生の受け入れは大変ですが、保育士にとってもよい刺激と受け取り、温かな気持ちで受け入れてあげましょう!