「加配保育士」とは?
役割や仕事内容についても紹介

▶ もくじ
配慮の必要な子どものサポートを行う『加配保育士』。
できること、できないことの差が激しい子どもの側につき、一人ひとりの特性に合わせた対応を行います。現在の保育園や幼稚園で、子どもたちが集団生活をするうえで欠かせない存在です。
では、加配保育士の仕事とはどのようなものなのでしょうか。加配の制度や実際の仕事内容について見ていきましょう。
「加配(かはい)保育士」とは?
発達障害などにより特別な支援が必要な子どものために、保育者を追加で配置することを加配といい、担当する特定の子どもに常に付き、生活の中で苦手に感じることを援助する保育士を「加配保育士」といいます。加配保育士になるために特別な資格は必要なく、通常に働いている保育士が「加配保育士」として特定の子どもを受け持つことが多いです。
加配保育士の配置基準って?
現在、加配の設置ついて国が定めた一律の基準はなく、対応は自治体ごとに異なります。みずほ情報総研が自治体を対象に行った調査によると、「障害児保育を行うための加配職員の配置基準を設けているか?」という質問に対して、1位「具体的な基準がない(42.5%)」、2位「障害の程度を問わず基準が一律(28%)」という結果になりました。
参照:みずほ情報総研【保育所における障害児保育に関する研究(平成28年実施)】
また、2位の「障害の程度を問わず基準が一律(28%)」と回答した市区町村での具体的な基準は、1人が最も多く23%、次いで3人、2人となっています。
参照:みずほ情報総研【保育所における障害児保育に関する研究(平成28年実施)】
明確な決まりはないものの厚生労働省は「概ね障害児2名に対し、保育士1名を水準」※としており、これをもとに各自治体が各々の状況に合わせて配置割合を設定。
※出典:厚生労働省 障害児保育に係る保育士等の配置について
実際に加配担当を配置するかどうかの判断は園に任せられていますが、実際には多くの保育園や幼稚園が加配制度を採用しています。
加配保育士が見守る必要のある子ども
発達障害の中には、「ADHD」「自閉スペクトラム症」といった複数の障害が含まれます。それぞれの子どもに適した環境を整えるために、その特性を理解することが重要です。
※出典:国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害を理解する」
ADHD
ADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴は、注意持続の欠如もしくは、子どもの年齢や発達レベルに見合わない多動性や衝動性、あるいはその両方。ADHDを持つ子どもは我慢しようとしてもじっとしていられなかったり、良く忘れ物をしてしまったりすることが多く、症状は通常7歳までに現れます。
「どんなにがんばってもうまくいかない」と、自分を責めることで自己肯定感の低下につながることも。問題行動を我慢できたときはしっかりと褒める、シールを貼るなど、できたことを目に見える方法で認めてあげることが大切。多動症状をただ押さえ込むことはよい結果を生まないので注意が必要です。
参照:厚生労働省e-ヘルスネット「ADHD」
自閉症
自閉症は言葉の発達の遅れ、コミュニケーションをうまく取れないなどが特徴で、特定の物事に対する強いこだわりを持つことが多く、症状は3歳までに現れるといわれています。また目を合わせない、一人遊びを好む、表情の変化が乏しい、名前を読んでも反応しないなどの様子は幼児期によく見られる代表的な行動です。
参照:厚生労働省e-ヘルスネット「自閉症」
アスペルガー症候群
言語発達の遅れがないため幼児期には比較的わかりにくく、成長とともに対人関係の不器用さではっきりすることが多いとされています。
自閉症の3つの特徴のうち「対人関係の障害」と「パターン化した興味や活動」の2つの特徴を有する一方、コミュニケーション能力や知的発達の遅れはほとんどの場合見られません。
アスペルガー症候群の子どもには一人で遊びたがる、同じ遊びを繰り返す、融通がきかないなどの特徴がみられ、集団生活ではストレスを溜めやすいので注意が必要です。
参照:厚生労働省e-ヘルスネット「アスペルガー症候群」
グレーゾーンの子ども
発達障害の診断は受けてはいないけれど、保育者が何らかの特別な支援が必要と認識しているのが「グレーゾーンの子ども」です。
定型発達との境界が曖昧で診断がつかない、あるいは未受診の状態の子どものことを言います。
一般的に「気になる子」とも言われ、保育者の支援が必要なことが多く、園によっては補助の保育士を一人多く配置するなどして対応しています。
加配保育士の仕事内容は?
加配保育士の仕事は一般の保育士とは大きく異なり、通常の保育を円滑に進めるための担任の補助ではなく、障害をもっている子の専属担当となって一日保育にあたります。
では、加配保育士の実際の仕事内容を見ていきましょう。
支援が必要な子どもを常にサポート
「落ち着きがなく、いつも動き回ってしまう」
「周りとのコミュニケーションをとるのが苦手でお友達と仲良く遊べない」
など、日常生活の中での困った状況をサポートするのが加配保育士の仕事です。
全体的な保育の流れについていくことが難しい子どもでも、加配保育士が常にフォローする体制をとっていることで、集団行動やお友達とのコミュニケーションが上手くいくことがあります。
加配保育士は、担当の子どもが集団生活の中で、何が可能で何が苦手なのかを知り、一人ひとりに合わせたサポートを行います。
個別カリキュラムの作成
保育園や幼稚園では、月案や週案でクラスごとの保育目標を設定しますが、障害を持った子はその保育目標を達成できないことも少なくありません。そのため、子ども一人一人に合った個別カリキュラムを作成するのも加配保育士の役割になります。子どもの発達や障害に合わせてねらいや保育目標を設定し、適切なペースで活動を進めていけるようにすることが大切です。
他害する子どもの見守り
サポートを必用とする子どもは、気持ちが不安になったり、物事が思うように進まなかったりするとき、かみつく、叩くなどの他害行動をとることがあります。ほかの子どもに危険が及ぶ行動がある場合は、加配保育士が常に目を離すことなく見守ることが大切です。
他害行動が現れた場合は、興奮を鎮められるよう本人が落ち着ける場所に連れて行きましょう。気持ちが落ち着いたら、好きな遊びなどに誘い、気持ちを切り替えられるようにします。
そして「なにが原因だったのか?」を振り返り、何が嫌だったのか、そんなときはどうすればいいのかを、その子に分かるやり方で少しずつ教えていきましょう。「10数えようね。」「深呼吸してみよう。」など、方法を具体的に伝えるのがポイントです。
また、このような事態は事前に回避するのが前提。
その子にとって不快となる刺激を避けるなど、パニックを引き起こす要素を知り、できるだけ周囲の環境から取り除いてあげることが大切です。
言葉の遅れをフォローする
担任の先生の指示をほかの子と同じように聞くことができない場合、加配保育士の個別のフォローが必要に。
例えば、広汎性発達障害の子どもの場合、大声での呼びかけには反応できなくても、そばでそっと声をかけられるとすんなりと伝わり、行動できることがあります。
抽象的な言い方は避ける、具体的に何をするかをハッキリという、などその子にあった伝え方をして、集団生活にスムーズに参加できるよう援助しましょう。また、言葉の遅れが原因で、癇癪を起こしたりお友達とのトラブルに繋がることも。
このような場合には、加配保育士が間に入り、子ども同士のコミュニケーションの助けになるようフォローします。
そして、言葉の発達を促す働きかけをすることも、日頃の成長を細かに観察している加配保育士の仕事です。
保護者への園生活の共有
園と家庭の両面から子どもの成長を見守っていくため、保護者との情報の共有は必要不可欠といえます。毎日の園での様子を丁寧に伝えましょう。
気になる様子を共有することは重要ですが、ネガティブな内容ばかりでは保護者の不安感を増大させてしまうことになります。
「長い時間落ち着いて過ごせました」など、できるだけ『できたこと』から話すようにして、子どもの成長を前向きにとらえられるように伝えるのがポイントです。
『できなかったこと』を伝える際には、子どもの“困り感”を軽減する対応方法や案を一緒に伝えられるといいでしょう。
障害を持つ子どもの保護者は、子育てや子どもの成長に人一倍悩みを抱えていることが多いものです。「一緒に考えていきましょう」という、寄り添う気持ちを持って保護者に接することが大切になります。
加配保育士の悩みとやりがい
特定の子どもと常に一緒にいる、加配保育士。保育士資格を取得する際「障害児保育」について学んだとはいうものの、専門的な知識があるわけではないため、悩みを抱え自信をなくしてしまう方も多くいます。
担当のAくんは日常的にものを投げたり噛みついたりします。体が大きく力が強いので、周りの子どもに怪我をさせてはいけない、というプレッシャーが常にあり、登園から降園まで1秒も気が抜けません…。

落ち着いて過ごせるようにパーソナルスペースを設けたり、興味を持ってもらえそうなおもちゃを用意したり…毎日あらゆる工夫をして保育に臨むけど、いつもすぐに飽きてしまってお部屋を走り回ってしまいます。結局クラス全体を掻き回して大混乱!

加配担当には一般の保育士とはまったく違った「加配保育士ならではの保育の悩み」があります。
子どもが落ち着いて生活を送るためにどうしてあげればいいのか?
信頼関係はどのように築けばいいいか?
子どもの性格が一人ひとり違うように、特別な配慮を必要とする子どもの性格や行動もそれぞれにまったく異なります。対応はパターン化できるものではなく、また、担当の子どもとの信頼関係が必要不可欠です。常にその場面に合わせた適切なフォローを即座に判断して実践することが求められ、悩む方も多いでしょう。
障害を知るために知識を深め、子どもを知るために日々奮闘…とたくさんの努力が必要になりますが、その分感じられるやりがいも大きいのが加配保育士の仕事です!
嬉しいのは自分を信頼してくれているとハッキリと感じること。そしていつも一番近くにいるので、小さな成長まで見守ることができます。できることが増えたときは自分のことのように嬉しい!

受け持ち始めた4月のころは、積み木を使って一人で遊んでいたBくんが、日を追うにつれ、少しですがお友達と一緒に遊ぶことができるように。ここまで来るのは簡単ではなかったけど、振り返ってみると成長が感じられ、大きな達成感を感じます!

特定の子どもと密に接するため、子どもの小さな成長にも気が付くことができ、大きな喜びと達成感を感じることができるのは加配保育ならでは。
大変な分、学ぶことも多く、年度終わりには「担当になってよかった」と感じる保育士は多いようです。
また、加配保育士の仕事には通常の保育では経験することができない場面が多く、保育士としてのスキルが上がります。
加配保育士に必要なことは?
加配保育士になるために特別な資格は必要なく、保育士であれば誰でも加配担当となる可能性があります。では、実際に加配保育士として働くにはどのようのことが必要なのでしょうか?
障害児保育の知識を身に付ける
特別な資格は不要とはいうものの、担当する子どものことを知るためには、障害児保育の知識が必要となります。
同じ診断名でも、子どもによって様子や対応が異なり、前例が通用しないというのが障害児保育の難しいところです。自治体や支援施設などが実施している研修に参加して、発達障害の特性を理解したり、具体的な支援方法についての学びを得る必要があります。
➡発達障害に関するイベントや研修会などの情報(国立障害者リハビリテーションセンター)
保護者のケア・配慮の知識を身に付ける
発達障害を持つ子どもの保護者は「自分の育て方が悪いのかもしれない」と悩んでいることが多くあります。子どもの成長に不安を感じている保護者にとって、子どものことを理解しようと愛情を持って接してくれる保育士は大きな心の支えです。
保護者が悩んだときにそっと寄り添えるよう、カウンセリングについての知識を身につけるのもいいでしょう。
加配保育士は大きなやりがいを得られる仕事
子どもの力を伸ばすため、最適な方法を考えサポートする加配保育士。
大変な仕事である反面、加配保育士だからこそ感じられる大きなやりがいがあります。「できなかったことができるようになった」「今日は笑顔で過ごせている」など、子どもの日々の成長や小さな変化まで感じることができるのは、保育士としての本来の喜びと言えるでしょう。

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